元帝王の都


「帰り道がわからなくなると、誰でも遅かれ早かれ帝王になりたがるんだな。みんながみんな、なれたわけじゃない。だけど、なりたがったのは、みんなさ。だからここには、2種類のあほうがいるわけだ。もっともゆきつく先はーーま、いってみりゃーーみんな同じだがね。」

「2種類って、どんな?教えてくれ!アーガックス、わたしは、ぜひそれを知らなくちゃならないんだ!」

「あわてなさんな!」猿はひっひっひと笑って、バスチャンの首にしがみついた。「まず一つは、記憶を次々となくしていって、すっかりなくしちまったあほうだ。最後の記憶がなくなると、そいつらの望みをかなえてやるアウリンも、もう何もできなくなる。そしてーーま、いってみりゃーーひとりでここにやってくるわけだな。もうひとつの、自分を帝王にしちまったあほうは、帝王になったとたんに残っていた記憶が全部消えちまうのさ。だからアウリンは、やっぱりそいつらに望みをかなえてやることができなくなる。そうだろう?もう何も望まないんだから。どっちにしても、結果は同じ、ごらんのとおりだ。その連中もここへきて、二度と出てゆけない。」

「とすると、この人たちはみんな、一度はアウリンを持っていたということなのか?」

「あたりまえさ!」アーガックスが答えた。「連中はとうに忘れちまっているがね。もっとも今じゃ、どうせなんの役にもたちゃしない、このあわれなあほうどもにはな。」

「じゃあ、この人たち、アウリンは・・・」バスチャンはいいよどんだ。「アウリンはとりあげられたのか?」

「そうじゃないよ。」アーガックスはいった。「自分を帝王にしちまうと、そいつのその望みでアウリンは消え失せるんだ。わかりきったことじゃないか。ーーま、いってみりゃーー幼ごころの君から、その権力を奪うために、当の幼ごころの君の権威を使うわけにはいかないだろう。」

バスチャンはひどく気分がわるくなり、どこかに腰を下ろしたくなったが、小さな灰色の猿がそうはさせなかった。

(ミヒャエル・エンデ著「はてしない物語(下)」より)

絵:マウリッツ・コルネリス・エッシャー「相対性」1953年


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